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幻滅デイリー
忘却
 背中が熱い。ズキ、と脈拍に合わせて痛む。背中に指先を這わせると、汗とはまた違った液体が指紋を伝った。よくよく見れば、鮮やかな赤い血だった。
「う、ん……ッ」
隣で寝返りを打つ彼女を見て、頭を抱える。これが酔った勢い、若気の至りというやつかと改めて認識させられる。というか、ここは一体何処なんだ。出窓のカーテンから漏れる光を頼りに、部屋を観察する。健康診断で矯正視力は0,4だったが、必死に目をこらす。ベッドの周りには脱ぎ散らかした服、シーツをめくれば白い素肌、乱れきった流れる髪。
「……ははッ」
一体、彼女は誰なんだろう。ここは、何処なんだろう。そして、今は何時なんだろう。
「もう……、起きたの……?」
「や、あの、うわ、あ、えっと、その、うーん……。いや、……すみませんでしたッ!」
ベッドから降りて、全裸のまま土下座をする。何と情けない姿だろうか、シュールにも程があるだろうに。
「何を、謝っているの? もしかして、浮気でもしたの? それとも、異常性欲に目覚めたとか? まあ、ふざけた事はさておいて」
「いや、そうじゃなくて……。行きずりの相手なんかに、身を任せる君もどうかと思うけど」
いやいやいや、彼女の家になだれ込んでしまった俺が一番悪いだろう。どう考えても、そうだ。いわゆる、送り狼じゃないか。
「あなた、忘れちゃったの?」

 そういえば、俺の名前は……何だっけか。

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