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幻滅デイリー
秘めやかな密やかな
 あ、と言いかけてそのまま飲み込む。今、声をかけて一体どうするつもりなんだと自らを叱咤する。こちらは気まずくなるし、あちらはプライドを傷付けられるはずだ。ならば、どうすれば良いんだ。
「……は、あ……ッ」
何と言っているのかは解らないが、思わず魅入ってしまう行為だった。ゴクッ、と喉を鳴らして唾を飲む。やたらに、喉が渇いていた。けれども、ここから出ていく事は出来ない。一つ壁の後ろ側から、そっと覗き見るしか出来ない。いや、覗きだなんて下賎な。固くギュッと瞼を閉じて、耳を塞ぐ。何も見ていない、何も聞いていない。俺は今日、ここにいなかったのだ。
「ん……、ふぁ……」
しかし、荒めの息遣いと微かな雑音が耳に忍び込む。嗚呼、駄目だ。俺は今日、ここにいる。しかも、見ているし聞いている。

 俺は、彼女が自ら鼻孔にこよりを突っ込むところを見てしまった。それも、酷く間抜けな顔をした彼女を。

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あきゅろす。
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