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幻滅デイリー
左右の腕
 春麗らかな縁側に、二人並んで桜を見る。暖かく、傍では猫が丸まって欠伸をしていた。
「ふふっ、猫が欠伸してる」
「猫も眠くなるさ」
「そうだね」
男は、ジッと自らの手を見ていた。それを、女が横から覗く。
「どうしたの?」
「俺の親父が昔、桜を見ながら言ってたんだ」
「何? 聴かせて」
女は、男にそっとしな垂れかかる。桜の花びらが一枚、女の膝に落ちる。男は、女を見て言う。
「お前に家族が出来た時は、例えその片腕を失っても守ってやれ──ってさ」
すると、女は男の手に触れて言った。
「わたしの母も、昔似た様な事を言ってたわ」
「教えてくれるか?」
「ええ、勿論よ」
女は、微笑む。
「あなたに大事な人が出来たなら、あなたはその人の片腕になってあげなさい──って」
「じゃあ、俺が片腕を失っても大丈夫だな」
「そうね、きっと大丈夫よ」
桜は静かに、風にゆっくりと吹かれていた。その枝の上では、欠伸をした猫の伴侶とも思える猫がニャアと鳴いた。

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