幻滅デイリー 白い粉 「君さあ、危ない子ってよく言われない?」 「……言われません」 年上でも頭悪そうだ、とぼくは思った。偏見じゃないけど、カラーコンタクト・ピアス・脱色された髪・化粧・酷い隈の男は尊敬に値しないだろうと判別する。 「堅いねえ」 「あなたが、柔らか過ぎるんじゃないですか」 「うふふー、辛辣」 あれか、今流行りのオネエというやつか。 「ぼくに、何の用があるんですか放して下さい変態野郎」 「本音が出たわね、鼻垂れ小僧が」 「い……ッ?!」 ゴツ、と鈍い音が頭に響く。男の力、とかいうやつだ。 「世の中にはさあ──変人になりたくないけどなっちゃった人、変人なのに抵抗して認めない人、変人の振りをしている人──の三パターンがあるけど。君は、二番目のやつだね」 煩いカマ野郎だ。 「ぼく、帰ります──遅いですし」 「認めちゃえば良いのに──、楽になるわよ。常軌なんて、逸しちゃえば良いのよ」 むせ返る香水の臭い、床に転がった使用済みの注射器、鼓膜を痛める様な民族音楽。全てが、ぼくを犯し始めていた。 「君には特別、良い物あげようね──人生、変わるわよ」 小さな袋に入った、白い粉を手渡される。 「学校なんてね、大切な事は何一つとして教えてくれないんだから」 「………」 ぼくは帰宅して、袋を開けたままずっと戸惑っている。このまま、これに手を付けたら──きっと、ぼくはぼくで無くなってしまう。チンピラからは助けてもらったが、再び窮地に立たされてしまった。 「ぼくは、少し人間嫌いなだけの普通の子なのにな……」 そう言って小指の先を舐め、白い粉を付けてから口へと運んでいった。 [戻][進] |