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幻滅デイリー
役者魂
 灰色を基調とした、黒と赤と白を使ったチェックのフード付きダッフルコート。ふわふわとした繊維の手編みだと思われる、ピンクと白の縞模様のマフラー。あれは、絶対に彼女だ。そう思い、ぼくは後ろから追い掛ける。そして、彼女の後ろから声を掛ける。
「おはよう御座います、先輩」
暦の上では三月になったが、未だ吐く息が白い。振り向いた彼女も、いくらか鼻先が赤かった。以前「鼻の先が、赤いですね」と言ったら、「クレオパトラにも負けないくらい、鼻が高いからよ」と返された事がある。まあ、実際のクレオパトラ七世の鼻については「もう少し、わたしの鼻が曲がっていたら世界は変わっていただろう」と訳されるのが妥当らしい。高いか低いかで、そうそう変わらないだろうし。まあ、とにもかくにも閑話休題。
「おはよう」
短く返される。やはり、自分は好かれてはいないのか。ふと、悲しくなった。話す事も無いので、服装について話しかけてみる。
「先輩って、いつも同じコートとマフラーしてますよね」
話題としては、少し軽すぎただろうか。すると、ずっしりと空気が重くなった気がした。そして、じろりと睨まれる。
「わたしは、この服装によってわたし自身を演じているのよ」

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