幻滅デイリー それが言えなくて そうだ、これを恥ずかしがってはいけない。 「あ、あ……、すみません」 「いいえー」 カップにコーヒーを注いでもらって、何を謝っているんだ俺はと自己嫌悪に陥る。しかし、相手はニコニコして俺の隣に座っている奴のカップにもコーヒーを注いでいた。隣の奴は、俺の様に謝らなかった。当然だ、謝る必要性が無いからだ。 「有難う」 そうだ、自然に言えば良い。そもそも、謝るという事の方が不自然だ。俺は未だ悪い事を何一つとして、していないのだから。そう思って、ぐいとコーヒーを一気に飲み干す。そして、テーブルに置く。 「おや、そんなに喉が渇いていましたか」 立ち上がり、コーヒーポットを手に取る彼。 「あ、いや、その……。君の淹れてくれた、コーヒーが美味くてな」 「そうでしたか、有難う御座います」 素直に礼を言えるという事は美徳、とは誰が言い始めた事か。誠に、的を射た言葉だと沁みた。しかし、俺の褒め言葉の何と空々しい事。まるで、浮ついた世辞の様だ。 「では、目の前を失礼して」 彼によって、カップに再びコーヒーが注がれる。今度こそ、言わなくてはならない。相手の為に、いや、これからの自分の為にも。 「あ」 [戻][進] |