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幻滅デイリー
探偵ゴッコ
「わたしの尊敬する探偵は、やはりかの有名なオーギュスト・デュパンだろうね。勿論、君も知っているだろう?」
物事は形から入るタイプのか、彼はいかにも古めかしい漫画の名探偵の様な出で立ちだった。黒と茶と赤のチェック柄のハンチング帽や、コートを身につけている時点でそれは明らかだ。
「ええ、ぼくも推理小説は高校生の頃に読み耽ったクチですからね。エドガー・アラン・ポー、ですね」
「そう、江戸川乱歩というペンネームの捩りとなった人物さ。これは、読書家の君にとって蛇足だったかな」
はは、とお互い探り合う様に歓談する。
「実は、わたしはね推理小説の探偵という奴が大嫌いなのだよ。何故ならば、何しろあれには制約が多すぎる。犯人は絶対に探偵を殺せないし、探偵は絶対に犯人を突き止める。息苦しくて、それは仕方が無いのだよ」
ぼくは、探偵とはそういうものだと狂信的だったのかもしれない。探偵は犯人を追い詰め、警察に突き出す。そして、いつだって完全なのだ。しかし、彼は少し違っている気がした。いや、決定的な証拠は無い。何しろ、助手の勘とかいう八十パーセントは外れる事になっている代物だ。
「所で、セオドア・ロバート・バンディを知っているか」
「いえ……、それは探偵ですか?」
「いや、笑って死んだ殺人鬼さ。わたしはオーギュスト・デュパンより、ロバート・バンディ派なのだよ」
にこりと笑った探偵は、ぼくの頭に陶器製の灰皿を打ち付けた。撲殺、と脳裏に浮かぶ。
「ひぎッ?! あ! あ、ギャ! が、あッ」
鈍痛から、段々と意識が遠くなっていく。
「だから、推理小説というのは当てにならないのだよ。もしかしたら、探偵は証拠を隠蔽したい犯人かもしれないのに」

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