[携帯モード] [URL送信]

幻滅デイリー
昨日はバレンタイン
「やっだー、ブルジョワじゃーん」
「っていうか、GODIVAのチョコあげるのは下心があるからに決まってんでしょー。アンタこそ、彼氏にBVLGARIのチョコあげたんでしょ」
「うふふ、一粒七百円だったんだから。しかも、超並んだしい」
揺れる電車の中、座る俺の前でブランド物のコートに身を包んだ二人組の女は朝から騒いでいた。全く、いい気な物だ。
「お返しは絶対CHANELの新作バッグにしてもらうんだから、それくらいは当然でしょ」
「悪女ねー」
「お互い様でしょ」



「はあ……」
例年通り、昨日俺は誰からも何も貰えなかった。チョコレートはおろか、クッキーや飴すら貰ってはいない。朝から諦め半分でもあったが、こればかりは仕方がないと帰り道にコンビニへと立ち寄る。彼女もいない独身、一人暮らしの男にはコンビニ弁当がよく似合う。菓子類の棚を今日ばかりは絶対に見ないと決め、ビールとコンビニ弁当を持ってレジへと出す。店員は、まだ幼さの残る可愛い女子高生だった。せっかくのバレンタインデーというのに、と自らを棚に上げ老婆心を抱いてしまう自分を叱咤する。すると、女子高生は大きめのコインを模ったチョコを出す。
「今日は、バレンタインデーなので」
馴れた様に出されたが、嬉しかった。冴えない会社員の身、義理チョコすら貰う事なく一日を終わろうとしていた瞬間の不意打ち。
「どうも」
あまりにも嬉しすぎて、妙な返事をしてしまったかもしれない。だが、それは本当に嬉しかったのだ。チョコ自体は美味しくは無かったが、なかなか美味いと思ってしまう程に。

[戻][進]

15/29ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!