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幻滅デイリー
喜劇の彼女
「あっは! わたしの人生は、まるで喜劇そのものよ!」
彼女は首を絞められながらも、そう楽しそうに言っていた。ぼくは、それを酷く冷めた目で見ていたのを覚えている。



「わたしは、君なんかに惚れないよ」
と言いながら、彼女はぼくの髪を触っていた。
「あ、枝毛」
ブツッ、と勢いよく抜かれた様だ。頭皮が悲鳴をあげていたが、ぼくは彼女の手の中にあった数本の髪を見る。その中に、枝毛と呼ばれる様な髪は一本も無かった。
「ふふっ、見間違えた様だね」
その台詞には、悪気の欠片すらも見当たらない。それが、彼女の特徴でもあった。



「あの人、素敵」
ぼくにしな垂れかかりながら、彼女はとろんとした表情で見知らぬ彼を指差す。
「そう」
彼女は、ぼくの嫉妬を懸命に煽る人だった。
「でも、凄く残念。わたし、不細工が好きなんだもの」
「そう」
しかし、彼女はぼくを好きだとは一回も言わなかった。勿論、彼女とぼくは彼氏彼女の関係でも無かった。だが、常に一緒だった。
「惚れたら、負けよ」
クスクス、と彼女は笑っていた。
「わたしは、あなたが嫌い。これだけは、覚えていてね」
そう言って、彼女はぼくにキスをした。

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あきゅろす。
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