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幻滅デイリー
自尊心アルバイター
「そこの店員。これ、不良品なんだけど。動かないのよ、この時計!」
プライドが人一倍高い彼は、客と差し出した置き時計の入った箱を見下す様に見た。ここは百円均一なので、客も客だが。客は見た目からして、四十代程の女性だった。しかし、ぼくとしては彼が客を仕留めないかどうかの方が心配だった。
「そうですか、では失礼します」
声色自体は優しいが、引ったくる様に奪う手付きや怒りが宿った目付きは鬼さながらだった。ガチャガチャと時計をいじっている横顔を気にしながら、ぼくはレジ打ちに勤しんでいた。この長蛇の列を何とか速く片付け、彼の元へ行ってやらねばならない。第六感が、そう告げていた。だが、彼は落ち着いて箱の端を指差す。
「ああ、電池が入っていませんね。ほら、ここにも電池は別売りと注意書きもあります」
「なら、もっと大きく書いておきなさいよ!」
「申し訳ございません、お客様。以後、担当者に言っておきますので」
女性は逆切れをして、店を後にした。他の客も驚いていたが、やがては興味を無くしていた。



「あそこで、君もよくキレなかったね」
帰り際に言うと、彼は苦笑しながら答えた。
「俺は、あのババアに頭を下げたわけじゃない。金に頭を下げていると思えば、たやすい事だ」

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