幻滅デイリー 基督教徒ノ彼 「その時、イエスは厳かに仰った」 「わたしは、宗教絡みが嫌いだって言ったでしょう!」 ヒステリックな声が、広い中庭に響いた。 「……ごめん」 彼は、申し訳なさそうに謝る。悲しそうに俯いた横顔を、愛しく思った。そんなに強く、言うつもりはなかったのに。信仰の自由は認められているし、わたしが彼を縛る事が出来る理由なんてどこにも無いのに。 「本当にごめん、聞きたく無かったよね」 悔しくて、泣きたくなった。なぜ、この人は謝るのかが解らない。こんな小娘に怒鳴られて、謝るなんて人が良いのか。ううん、もしかしたら馬鹿なだけかもしれない。それでも、彼がロザリオを手繰って祈る姿は美しくて。それでいて神々しいのは、絶対に言ってやらない。 「ごめんね」 「もう、謝らないで。ウザったいわ」 「ごめ……、あ」 ジロッと睨むと、彼は自らの口を塞いでから苦笑した。 「バーカ」 この人は、いつか騙されると思った。 「君は博識だし、頭の回転も速い。ぼくは君に何と何度罵られようと、構わないよ。ぼくは、馬鹿だもの」 彼は、わたしの肩を優しく抱いた。 「触らないでよ、バカがうつるわ」 「ごめん」 神様はいないから、宗教は嫌い。神様がいたのなら、わたしはこんなに悲しく無いもの。でも、もしも、もしも──もしも神様がいるのなら、彼の優しさがずっとわたしだけに注がれます様に。 [戻][進] |