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幻滅デイリー
薄命な佳人に
 彼は、病院のベッド上で本を読んでいた。白く囲われた世界は、彼にとてもよく似合っていると思った。
「……声をかけずに、そこにいられると困るのだが」
「あ……、ああ、すまない」
本から目を離さずに、近くの丸椅子に座れと指先で指示をする。
「待ってくれ、もうすぐ切りが良い」
「それは、構わないよ。待たせてくれ」
彼に近付くと、骨の形が浮き出た細い肉体が嫌でも目に付いた。いつの間に、こんな痩せこけてしまったのだろうか。長く垂らした髪、伸ばしっぱなしの爪が印象的な。



 どれくらいの時間が経ったのだろうか、俺には解らなかった。
「良し、話を聞こう」
パタン、と乾いた音と共に本が閉じられる。
「あの、賢者と呼ばれるあなたに訊きたい」
「はは、それは面白い。わたしが賢者か、誰が言ったか知らないが」
「人が死ぬ事を、どう考えますか」
笑っていた顔が、急に引き締まった。
「役割が終わった、という事だろうな。わたしはそろそろ、役割を終えるだろう」
俺は背で、隠し持っていたナイフを光らせた。殺す事に躊躇いながら生きてきたが、ようやく要らない自信がついてしまった。俺は、役割を終わらせてやっているのだ。彼だけは、頼まれなくとも俺が終わらせてやりたいという願望に囚われる。今日は下見という予定だったが、そうもいかなくなってしまった。その運命に振り回された、細い体を引き裂いてやりたいという欲求。
「君は、わたしを終わらせてくれる為に来たのだろう。よく来てくれた、待っていたよ」

 ああ、この人は何と。

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