幻滅デイリー 確認のち、実感 「まだ……、信じられないんだ」 弟は、ぼんやり呟く。 「何と言うか、まだ生きている様な気がして仕方が無いんだ。こう、上手く例えられないけど。明日になったら、また何食わぬ顔して隣に来そうな気がするんだ」 「もう一度、確認したら良い」 ぼくは彼の背中を軽く押して、棺を見る様に促した。 「……あ」 彼らしからぬ、か細い声だった。ぼくはその声を聞いて、妹が死んだ事を確認した。人の通りが悲しく、虚しい。学生服姿で佇む彼は、呆然としていた。何も考えられないとでも言いたげな、彼の横顔。 「見たか」 「あ、ああ……」 少しの間だったのに、彼は痩せた気がした。 「そうか」 「兄さんは、落ち着いているんだな」 「そうでもないさ」 「妹が死んだのに」 ぼくが落ち着いている様に、見えるのだろうか。まさか、落ち着いてなんかいるはずがない。ぼくよりも取り乱している弟がいるからこそ、落ち着いている様に見えるだけだ。 「気丈な息子さんなんですね」 「はは、見てくれだけです」 両親と親戚の声が、不意に聞こえた。そうだ、見てくれだけ。見てくれだけ大きくなり、見てくれだけマトモになった。 「もう、三人じゃなくなったんだな……」 虚しい響きが、耳に残った。 [戻][進] |