幻滅デイリー 修復師の弟子 暗いアトリエに、先生が袋を置く。絵の具の劣化を防ぐ為、わざわざ先生は暗い部屋を作ったのだ。 「先生が嬉しそうで、何よりです」 「ああ」 薄汚れた絵を広げ、楽しそうに糊を溶く。 「あっちにも、お前と同い年の弟子がいた」 「あっちとは、あの贋作師の先生ですか」 「そうだ」 この絵も、修復するのかと見る。タッチは円山応挙だが、それは無い。円山応挙を見たら、贋物と思えと言われているのだから。つまり、本物など有り得ないのだ。 「しかし、何故あちらのお弟子さんがぼくと同い年だと解ったのですか? 贋作師の先生って、ガードが固そうじゃないですか」 「ほら」 糊筆を持った逆の手で、カードが飛ばされる。 「わ、わっ?!」 「明日、返してやれ」 ロングヘアの美人の写真が貼られた、学生証だった。よく見れば、同じ大学で同じ科で同じ学年だった。 「スッたんですか!」 「無意識だ」 「全く……」 忘れない様にカバンにしまおうと部屋を出ると、先生が呼び止める。 「何ですか」 「緑青を、買ってきてくれ」 「はい、解りました」 エルミア・デ・ホーリー好きの贋作師とロングヘアの美人弟子に、無性に会いたくなった。 [戻][進] |