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幻滅デイリー
醜さ故の美しさ
 お前は何も知らない。関わらないから、きっと美しいままなのだ。そして、その醜さ故に関わる事も無い。



「それは、ぼくの絵か? ムッシュ」
「あ、ええ、はい」
髭面の四角い顔の、陰気な男。ぼくに比べれば、何もかもが劣る。だが、そのスケッチブックには寸分の狂いも無いぼくの胸像が描かれていた。
「へえ、上手いじゃないか。勿論、ぼくにくれるのだろうね」
「いえ、これは……」
「ふふ、大方ぼくの想い人にでも頼まれたか」
ダンスパーティで、他人の絵を描く根暗な男などなかなかいない。
「これは、習作なので差し上げられる物では無いのです」
「では、本番が出来上がったら教えてくれ」
しかし、あのゴツゴツした不恰好な手で絵を描くとは。滑稽だな、とぼくは人知れず笑った。その一方、ぼくは完璧だ。まさに、美の女神に愛されていると言っても過言では無い。見目、身なり、身分と完璧だ。この国では、どの人間もぼくの言うがままだ。



「何だって……」
「だから、お前が付き合っていたあの公爵夫人が例の絵描きと付き合っているという話さ」
不倫相手を寝とられた、と知ったのは数ヶ月後の事だった。実は絵描きの才能に惚れて、色々と取り持ってやったのだ。それなのに、あの絵描き。恩を仇で返すつもりか、と歯を食い縛る。
「街一番のプレイボーイと謳われたぼくは、とんだ笑い者だ!」
そうだ、消してやる。思い立ったら、ぼくの行動は早かった。闇で毒薬を取引し、再びダンスパーティを開く。彼のグラスには毒を塗り、後は待つだけ。たった、これだけだ。



「グラン、君の絵が完成したんだ」
初めて見た時とは驚く程に、絵描きは陽気になっていた。しかし、見た目は変わらない。相変わらずぼくは美しく、彼は醜かった。受け取った絵には、ぼくが白馬に跨がり軍を指揮する様子が描かれていた。ぼくは残念ながら、議員であるが。
「有難う」
絵を受け取り、召使いに命じて広間にと掛けさせる。
「さあ、今日はめでたい日だ。皆、好きなだけ飲んでくれ」
そして、彼にもグラスを手渡す。彼は笑って、ワインを飲み干した。その途端、ドタッと床に臥せる大きな体。華奢なぼくには、君を力で殺せるはずが無い。だから、こうしたのだ。
「……グッバイ、ムッシュ」
ぼくは酷く冷静だった。彼は幸せだったのだろうか、とまで考えてしまう程に。疑う事も知らぬ、哀れな絵描き。彼はそれ以上でも、以下でも無いのだ。
「君は、ぼくより美しかっただけだ……」

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あきゅろす。
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