[携帯モード] [URL送信]

幻滅デイリー
プロポーズも計画を
 居酒屋で先輩は指を組み、それを額に押し付けていた。
「俺は、後悔しているんだ」
「何をですか」
かなり酔いが回っているせいか、後輩の俺にベラベラと身辺を喋る。
「俺の彼女の事さ」
「ああ、あの綺麗な受付嬢の彼女ですね」
礼儀正しく素行も真面目な、媚びる事もなく凛々しい例の女性。先輩とその受付嬢は会社公認で、結婚もカウントダウンと噂に聞いたのにと思う。すると、先輩はつらつらと語り出した。
「彼女は綺麗で真面目だし、相当利発だよ。そう思っていた。だけど、何かが違うんだよ。恥ずかしながら、28にしてこの間、プロポーズをした。『俺の為に、毎朝味噌汁を作ってくれ』ってね。そうしたら、『はい』と言ったんだ。よし、これで結婚かと思った! そうしたら、彼女どうしたと思う? 何と、翌日から毎朝味噌汁を作りにマンションへ来るんだ! それならだけならまだ良いんだ、可愛いうちだ。だが、『出張の日は、どうしますか?』って訊くんだよ! 俺は、彼女と結婚しても上手くやっていく自信が無い。どうしたら良いと思う?」
「何だか、大変ですね……」
としか、俺には言えなかった。そんな天然過ぎる女には、第一出会った事が無い。そして、これからも出会う事はないだろう……多分。そして、先輩はまだ続ける。
「クリスマスイブも、クリスマスも彼女と過ごしたんだ」
「良いじゃないですか、羨ましい限りですよ」
うん、根っからの独り者には毒だ。
「それで、言うんだよ。『クリスマスって、男と女が好きなだけやれる日みたいな感じですよね』ってさ。俺は、シャンパンを吹いたよ。どこからそんな知識を得たのか、怖くて訊けなかった」
「あー、男泣きしないで下さいよ先輩」
「そして、翌日の朝にはやはり味噌汁!」
何だか、可哀相になってしまった。あの精神的にも強いと思っていた先輩が、これだけ泣くとは。そして、例の受付嬢の強い事。「まあ、味噌汁を頼んだのは先輩ですからね」とは、さすがに言えなかった。

[戻][進]

26/31ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!