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幻滅デイリー
最後のファンタジー
 大してする事も無い俺は、彼女もいない金も無い大学生。大学に入学してから友人となった三田に、電話をしようと窓を開けた瞬間だった。隣のマンションの壁を登る、謎の赤い影。ド派手な赤い衣装、大きな白い袋。これは、間違いなくそうだ。
「サンタ……クロース……」
でも無ければ、サンタクロースの扮装をした泥棒だ。そして、俺の視線に気付いてかバッと振り向いた。昔、絵本で読み聞かせてもらったサンタクロースとは随分違った。白い髭も白髪も無い、眼鏡をかけた若い男。
「な、中村ッ?!」
「三田、お前……」
思わず、携帯電話を畳張りの床に落とす。解りきっている顔なのに、指を差して訊いてしまう。
「三田、だよな?」
「ワタシ、日本語解リマセーン」
いきなり外人口調になるな、とティッシュの箱を窓から投げ付けてやる。それは、上手く三田の顔にヒットした。
「てめー、今さっき、俺を中村って呼んだだろーがッ! 110番通報すっぞ、コラ!」
「それは困る」
俺の投げたティッシュの箱には当たったくせに、常人離れした身体能力をもって俺の部屋に飛び込んだ。スタッ、と見事なまでに着地する。
「てめっ、靴ぐらい脱げよボケ! こちとら、借家だぞバカ!」
「それより、今見た事は誰にも言わないでくれ。頼む、一生のお願いだから」
「つか、火事場泥棒じゃないけど、泥棒はダメだろ」
すると、ガッと両肩を掴まれる。
「何だよ、俺は友人としてお前の悪事を見過ごせないんだからな」
「違う、俺は……本物のサンタクロースなんだ……。そして、ここら一帯の家庭を担当しているんだ」
あまりにも真面目な顔をして言うものだから、俺はプッと吹き出してしまった。泥棒が俺にバレたからって、そんな嘘をつくなんて。
「良いか、三田。今回で止めるなら、俺も目をつぶる。だから」
「埒があかない、ごめん中村」
その瞬間、ガツンと後頭部に鈍い音がした。目の前に、僅かに血の付着した灰皿が転がる。
「中村にも、メリークリスマス。プレゼントだ、いい子にしていたら来年も来るから」
三田の後ろ姿をボーッと見ながら、俺は意識を失った。



 翌日、寒さと隣のアパートから響く子供の声で目を覚ました。
「ほらー、サンタさんが来たんだよ」
「良かったなあ」
「来年も、来てくれるかなあ」
「はは、お前がいい子にしていたらな」
起き上がると、見慣れない包みがあったので開けて早速開けてみた。中には、目を付けていたジッポが入っていた。
「三田……クロースか……」
と言って、自分で笑ってしまう。その時だった、携帯電話がけたたましく鳴り出した。俺は慌てて窓から少し身を乗り出して、三田からの電話に出た。
「あ、中村? メリークリスマス」
「おう、メリークリスマス三田。プレゼント、サンキューな」
灰皿の一撃付きだったけど、とは言わないが。すると、三田は素っ頓狂な声を出す。
「何の事だよ、俺は昨日ずっと自宅にいたぜ」
「はあ、嘘だろ!」
「本当だって、嘘だと思うなら俺の家族に訊いてみろよ」
もしかして、あれは俺の夢だったのだろうかと考える。そうだ、三田は根っからの運動音痴。あんな芸当が出来るはずもないんだ、と思い直す。すると、三田は言った。
「そういえば、何で中村は電話かけるとき窓開けんの?」
「ああ、それは電波」
……アレ?

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あきゅろす。
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