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幻滅デイリー
彼は天才に恋してる
 神童も大人になれば只の人、だなんてよく言ったものだ。しかし、「天才は、いつまでたっても天才なんだよ」と彼は言っていた。そして、彼は今日もその天才とやらの家に足しげく通っているのだ。近所では天才では無く、変人と呼ばれている彼の元へ。

「学者先生、今日の夕飯は如何しますか?」
彼は丁寧に、彼曰く天才学者先生に訊いた。すると、学者は「うん、適当でええよ」と答える。そして、彼は「もう、そういうのが一番困るんですよ」と言って笑った。学者も笑いながら、「ははは、申し訳ない」と机に向かったままで言う。すると、彼は「って、昨日も言っただろ。このボケ老人が、いてこますぞ」と確かにそう言った。普段、穏やかな彼からは想像もつかない声色で。

 ぼくは小さな覗き穴を作った障子戸の裏で、息を潜めていた。一体、何をしているのだろうと自嘲しながら。しかし、彼は確実に例の学者が好きなのだと実感する。あんな楽しそうな姿を、ぼくは一度も他で見た事が無い。そして、密かに嫉妬している自分に気付いて学者の家を後にした。

 ああ、ぼくは一体何をしているのだろう。塞ぎ込むには十分過ぎる程の景色を、締めっぽい蒲団の中で何度も何度も繰り返していた。

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あきゅろす。
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