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幻滅デイリー
ゆ・めのはなし
「あ」
国語の授業中に、喉を押さえた。よりによって、自分の音読最中に。『小学六年国語』と書かれた教科書を持ったまま、微動だに出来なくなる。
「う、あ、あああ」
意味不明な叫びしか、教室には響かない。教壇に立つ教師や、周りの生徒は異質な物を見る目でぼくを見ていた。しかし、そんな事には構っていられない。思った通りの声が、出せないのだから。何故だ、今さっきまで普通に読めていたのに。もしかして、このままずっと喋れないままなのかと頭の中をグルグルと取り留めの無い思考が支配する。孤独感に、苛まれていた。教室の中心にあった自分の席が、とてつもなく恨めしい。
「う、うう、あ」
悲しいか、寂しいか、悔しいか、マイナスの感情が働いているのは解るものの、どうする事も出来ない。ただ、その場に突っ立ったままで呻く事しか出来なかった。



 やがて、授業終了のチャイムが流れたが、ぼくは未だ口を利く事が出来なかった。しかし、誰もぼくを気にする事は無かった。



 そして、ぼくの分の給食は床に置かれた。ぼくは、一体どうしたのだろうか。一つ、おかしな仮定がずっと脳裏に浮かんでいた。ぼくは、字が読めないのではないかと。そして、喋れない振りをしていたのではないだろうかと。

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あきゅろす。
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