幻滅デイリー 提出期限は、明日 「本当に、大丈夫?」 「応よ」 咳き込む彼に、何度も何度も振り返る。火燵でレポートを書く、彼の背中は優しい。 「そう……」 「だから、心配すんな。お前は、料理を作ってりゃいい」 いつにも増して、酷く掠れた声だった。わたしは彼の為に、せっせとお粥をこしらえる。流動食しか食べられる気がしないなんて、余程喉にキているのだろう。 「それは良いけど、背中見えてる。風邪、酷くなるよ」 「見んなよ、エッチ」 笑いながら、左手で上着を引っ張っていた。 ※ 「本当に、馬鹿だね」 お粥を皿に盛り、傍に寄ると彼は顔だけをこちらに向けた。わたしは、気にせず台に皿を置く。 「馬鹿って言う奴が、馬鹿なんだよ」 マスクをしているからなのか、くぐもった声が漏れた。そして、ズズッと鼻水を啜る。 「啜っちゃ駄目でしょ、ちゃんとかんで」 ティッシュを引き寄せようと火燵の端に手を伸ばすと、そのままその手を掴まれる。そして、恐らくキスをされた。布越しっていうか、マスク越しのキスだった。一瞬過ぎて、幻の様にも感じてしまう。掠める様に、時間を飛び越える様に。 「奪われた感じ、しないね」 「それより、感染しねえよな風邪」 わたしは、残る感覚に指を這わせた。 [戻][進] |