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幻滅デイリー
陰間廓艶噺
 陰間廓の不動様、と言ったら知らぬ者はいないという。それもそうだ、彼を広めたのは俺だ。



 腰の物を脇に置き、膳の前に座る。
「不動」
胡座をかいて、がつがつと飯をかっ喰らう様を誰が知るだろうか。不動はいつも、母屋では繊細のかけらすら見せない。
「今の俺は、ただの仙太郎だ」
「仙太郎」
「何だ」
ぺっ、と魚の骨を吐き捨てる。その姿が、妙に劣情を誘った。しかし、今日来た身請けの話を進める事にした。勿論、自らの欲を断ち切る為に。
「身請けのはな」
顔を顰めて、がたんと音を立てる仙太郎。
「俺は、身請けなどされぬわ」
「しかし、話は聞け。俺が、上から叱りを受ける事になる。それに」
「……誰だ、その酔狂な輩共は」
諦めた様に、空の茶碗へ箸を渡す。全く、行儀が悪いのは生れつきか。
「貿易商の若旦那、藩抱えの道場の師範、卸問屋の跡継ぎだそうだ」
「ふん、苦労のくの字も知らん餓鬼か」
鼻で笑う仙太郎の着物の襟首や裾から見える、日に当たらぬ白い肌に無意識ながら喉を鳴らす。その視線に気付いてか、仙太郎は妖しく笑った。
「今日も、御苦労だったな。来い、抱かせてやるぞ」
俺は蝶が華へと誘われる様に、不動の体を掻き抱いていた。

[進]

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