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幻滅デイリー
奇妙運送365+2
 取り敢えず、鈴木事務所は何とか解決する事が出来た。52の鈴木事務所から、たった1つの宛先を見付けるなんて。俺は探偵じゃねえっての。つか、取り付かれてるとか縁起でもねえし。一体、何なんだよクソ!
「湯山くん、大丈夫? 疲れてるなら、休んだらどう? わたしも、運転は出来るんだから」
「生粋の方向音痴に、任せられねえッスよ」
疲れているのは、自分でも解る。だけど、そういうわけにもいかない。
「姉ちゃんは事務、俺は配達ッスから」
「そ、そう……」



 だけど、甘かった。こうなるなら、先輩に頼みゃ良かったと実感した。配達先を見れば、全部の名前が佐藤太郎だった。しかも、住所は全部バラバラ。いや、佐藤なんて日本で超ポピュラーな名前だし。そうだ、気にする事は無い。



 新宿、池袋、新橋、原宿、三鷹、立川、八王子、町田、横浜。本日、九件の配達だった。場所もすぐに見付かり、受取人もすぐに印鑑を持って出てきた。しかし、受取人は全員が佐藤太郎。しかも、全部が同一人物。始めのうちは、世の中には三人同じ顔がいると聞いた事もあったので、大して気にも留めなかったのに。佐藤太郎は俺より先に、配達先にいたのだ。これは、もうヤバい。その上、佐藤太郎は笑顔で「ありがとう」と毎回言うのだ。常人に、こんな事が耐えられるか。俺は狂いそうだった。



 俺が退社届けを出したのは、その日の夕方の事だった。

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