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幻滅デイリー
奇妙運送365+1
 今日も、配達用のトラックに乗り込む。ドアを勢いよくバタンと閉めると、俺が配達する荷物を担当する事務の姉ちゃんが嫌な顔をした。
「ごめんな!」
「……車が傷むわ。それから、気をつけなさいよね」
「サンキュー! ありがとな」



 今日は少し、ルートが違った。なるほど、ビルの中にある事務所か。しかし、新しい場所ってのはこの歳になっても意外と浮足立つものだ。昨日は社長に直談判しても、相手にしてもらえなかったし。(どうやら、娘さんの誕生日だったらしいけど)さっきの事務の姉ちゃんは、「おかしいわよ。だってその荷物は、わたしが避けておいたのに!」と言っていたし。本格的に、あの小包はヤバい。客のプライバシーの為に開ける事は出来ないけど、いつの間にか消えてしまうし。いや、誰かが処分したのかもしれない。
「やべ、青だ」
後ろからクラクションを鳴らされて、発信する。やっぱ、他の事を考えながら運転はしちゃいけねえや。



「で、鈴木事務所か。何か、何処にでもありそうな名前だな」
ハハッと笑いながら、小包を手にビルの階段を昇っていく。しかし、古いタイプのビルだ。エレベーターも付いていないらしい。いや、俺はいつも階段を使うから問題ねえけど。

 煉瓦造りの壁を眺めながら階段を駆け昇っていくと、そこは明らかに異常だった。いや、毎月同日に受取人の死んだ空き家に届けるよりかは幾分かマシだったが。
「何だよ、コレ……」
片っ端からずらりと並んだ、鈴木事務所。寸分の狂いも無く、二階から五階まで全部鈴木事務所。いくら、鈴木っていう名前が多くてもこりゃねえだろうがと呆然とする。宛先には、ビル内の鈴木事務所としか書いていない。しかも、差出人は業者らしい。畜生、ちゃんと部屋番まで書けよ馬鹿野郎。それか、せめて電話番号とか。仕方なく、事務に電話をする。
「俺ッス」
「あら、どうしたの。事故? それとも、補導された?」
「そうじゃなくて。六件目の鈴木事務所、沢山あるから確認して」
全く、俺を何だと思っているんだか。でも、ファイルを開いてページをめくるあたり、やっぱり優秀な人なんだと思う。
「判別出来なかった? 一つのビルにあるんだから、同じ名前があっても二か三でしょ」
「姉ちゃん、二階から五階まで鈴木事務所だったんだけど」
「アンタ……、前から言おうと思ってたけど、何かに取り付かれてんじゃない?」
うん、言われたくなかったけど気付いてた。

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