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幻滅デイリー
優しさ落下
「あなたの優しさは、他人を傷付ける。そして、いつかあなた自身を滅ぼすでしょう」
呪いとも取れる、予言の様な。はたまた、忠告の様な言葉だった。



「背中を押してよ、わたしを拒むなら。そして、それでもわたしを想ってくれるなら」
ビルの屋上で整えられた靴の上に置いてあった、遺書をクシャッと握り潰す。
「あなたは、誰にでも優し過ぎるのよ」
はらはらと涙を零しながら、それでも気丈に泣き声は漏らさない。ぼくはただ、何も出来ずに立っていた。屋上の乾いた風が、髪を靡かせた。
「ねえ、押して? 我が儘はこれっきりだから、お願いよ。わたしに、ほんの少しでも同情してくれるなら」
「人に同情の念なんて、ぼくは一度も抱いた事が無い」
彼女はぼくの手を引き、鉄柵を飛び越える。
「一緒に飛んで、なんて言わないわ。あなたを、人殺しとも言わせない。だから、後生よ……」
「出来ない……、ぼくには出来ない……」
頭を横に振って、自らの手を戻す。
「なら、『愛してる』って言って」
「む」
無理だよ、と言おうとした瞬間だった。
「ごめんね」
彼女は少し左足をずらして、アスファルトへと落ちていった。
「……ッ?!」
彼女は小さく小さくなって、赤く染まった。



 嘘でも良いから、言えば良かったのに。顔に出ても良いから、言えば良かったのに。なぜ、嘘もつけなくなってしまったのだろうか。ぼくは、今でもあの光景を夢に見ては思い出す。

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あきゅろす。
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