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幻滅デイリー
千歳の契り
 海辺に、うら若き男女が二人。波の音を聞きながら、手を取り合っていた。空は星が瞬き、空気は澄んで静まり返っている。男は口を開き、女に言う。
「わたしは鶴になろう。そして、あなたと千年生きよう」
「そなたが鶴になると言うなば、私は龍宮の乙姫の様に亀となりましょうぞ」
女は睫毛を伏せ、夜の波より静かに言う。
「あなたに亀は似合わない、白き羽根を広げた汚れなき鶴が似合う」
男は、女の腕に沿って着物に触れる。女は、微かに「あ」と漏らした。
「しかし、私はそなたと離れとう無いのです」
「それは、わたしとて同じ事」
男は真摯に、ひたと女の目を見つめた。
「なれば、察して下さいませ旦那様」
はらはらと涙が女の頬を伝い、男はそれを何度も何度も拭う。されど、女の涙は止まらなかった。それでも、女は気丈に声も震わせず言葉を紡ぎ続ける。
「千年などと、私には短すぎるのです。それは、亀の万の年とて同じ事。なれば、私は亀になりたいので御座居ます。それに、鶴となってしまえば浦の島子の様に何処へ飛んで行ってしまうのか解りませぬ」
「わたしは、何処へも行かぬよ。いつ何時であろうとも、共に居よう」

 男女の居た浜辺には、鶴と思しき羽根が二枚落ちていた。

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