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幻滅デイリー
ぼくと彼と先輩
 彼から笑顔が消えたのは、先輩のせいだという事を知っている人はいない。彼は元々、よく笑う子供だった。

「おや、顔に傷をつけてしまったんだね」
切り傷をなぞりながら、先輩は嘲笑した。彼は、相当ショックを受けたらしい。憧れでもあった先輩を、失望させてしまったかもしれない事に。

 その晩、先輩は彼を訪ねて無理矢理事に及んだという。
「彼はね、喋らないから好都合なんだ。傷を広げて、血を滲ませながら声を殺す彼を自由にするというのはね。見ていて、なかなか良いよ」
「……最低だ」
「しかし、それから毎晩したが抵抗するそぶりは見せなかった」
「だから、彼は笑わなくなった」
「それで、君は彼の何だと?」
言葉でも、実力でも勝てない。彼も実際、ぼくを何とも思っていない。

 ぼくには、義務も権利も無い。

「お前は、アイツを大事なお友達だとでも思ってんのか? おめでたい奴だな」
「……ぐ」
先輩の襟首を掴んで凄んだが、相手にもならなかった。
「殴ってごらんよ、そのお友達の為に。ほら、俺が憎いんだろ?」
冷静にぼくを見下して、先輩は静かに冷笑していた。

 彼は笑わなくなり、喋らなくなった。

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あきゅろす。
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