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幻滅デイリー
蟷螂彼女
 彼女は刃物を振り上げて、ぼくを抱きしめる。ひやりとした、刃の感覚が項を支配する。
「ああ、好き好き好きよ好きなのよ。信じて」
一体、この状態で何を信じろと。基督も仏陀も神様だって、信じられるもんか。今、一番身近に感じるのは僅かな生と確かな死だけ。
「信じて、って」
「好きよ、愛してるわ本当よ。わたし、あなたみたいにホイホイと嘘をつく様な癖は無いもの」
ひたり、と当てられた刃物が横に動く。項を、軽く切られたらしい。
「う……、痛ッ?!」
「動かないで」
刃物を動かしたのはお前の方だろうが、と言いそうになりながら言葉を飲んだ。ギラギラとした目付きが、そうせざるをえかなかった。
「ねえ、あなたはわたしの事が好き?」
「あ、ああ……」
怖くて、首も縦に振れない。すると、嬉しそうに彼女は笑った。
「じゃあ、わたしの事を愛してる?」
「も、勿論……」
満足そうに益々笑い、空いている左手で尚強く抱きしめられる。これで、満足しただろうか。
「それじゃあ、わたしの為に死ねるわよね」
疑問符すら付かないセリフにぎょっとすると、喉元から刃が突き出した。どろりとした血を確認すると、彼女はそれを引き抜く。ぼくは、何も言えなかった。

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