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幻滅デイリー
Mirror syndrome
 いつからだろう、鏡が怖くなったのは。

「ミラー現象って、知ってる?」
「何それ」
ぐいッ、と右手でビールを勢いよく傾ける。当然だ、今は打ち上げコンパなのだから。
「あなた、本当は左利きでしょう」
肯定だけを孕ませた、質問だった。しかし、どうして。いつ、気付いたんだろう。
「正解」
別に、大して重要な意味は無い。左利き用の道具を買うのが面倒で、右利きの奴が左隣りに来ると面倒だから。
「あなたは、兄弟を殺した可能性がある」
「俺、一人っ子で長男だけど?」
突拍子も無い事を言いやがって、どうしてやろうかこの女。テイクアウトの刑にでも、してやろうか。
「でしょうね、見たところしっかりしてそうだもの」
「だから、何だ」
「鏡を合わせて隣り合わせ、あなたは左利き。あなたの兄か、弟になったかもしれない人は右利きよ。きっと」
「お前は、どこかのポエマーかっての」

 その時は茶化す事が出来たが、俺は鏡を見る度に怖くなっていった。ふと、本来の利き手を鏡に近付ける。すると、鏡の向こうの俺は右手を近付ける。怖いけれど、それだけでは無い不思議な感覚。

 俺が飲んでしまったかもしれない、親愛なる俺の双子の兄弟よ。

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あきゅろす。
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