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幻滅デイリー
田中くんと小林くん
「うお、田中! 田中じゃん、久し振りだな」
「え、小林……?」
「そうそうそう!」
俺の仕事先へ営業に来た小林に、偶然にも再開した。あまりにも、誂えた要な偶然に違和感を覚える。小林は高校時代の同じバスケ部で、部長だった。ちなみに、俺は副部長。俺は、実際良い思い出はあまり無いが。
「今日、仕事終わり空くか? 飲まねえ?」
くい、と手を傾ける。まあ、大事な取引先の相手だ。小林もなかなかのポストの様だし、断る理由も無い。
「ああ、構わない」
「っしゃ、約束!」
部下達から注目されながら、気まずくも小林と分かれた。

「俺、もう三人の子持ちなんだぜ。そろそろ、四人目が産まれんの」
「めでたいな」
今日何杯目か解らないビールを、ぐいと飲み干した。なかなか酔えない体に、少し苛々する。
「子供は良いぜ、何てったって可愛いからな」
「でも、四人って生活に支障出ないのか?」
「いんや、俺は全員養うぜ。子供だって、まだ欲しいし! 田中は、結婚したか?」
「いや、していない」
正確には、お前のせいで出来ないんだけどな。しかし、四人の子供の父親には見えない風体だよなと小林を見る。
「結婚は良いぞ、うん。家庭というのは、安らぐぞマジで」
「そうか」
ネクタイを緩めて、一呼吸置く。
「相手は彼女か、斎藤さん?」
「ああ、女バスの部長の菜月な」
「うん」
俺が、好きだった女だ。いや、今も好きなのかもしれない。彼女が小林を選んでから、俺は女でどん底を歩き続けた。兄貴の婚約者に惚れるわ、学校の女教師とやっちまうわで底辺だったのに。
「っつーかさー、お前。結婚してマイホームパパになって、子供は女と男一人ずつ、休日はディズニーランドに行くとか何とか言ってさー」
「そうだっけ」
「そうだよー」
小林は、本当に幸せそうだった。全て、ぶち壊してやりたくなる程に。
「それに、何でこの間の同窓会に来なかったんだよ」
「は? 葉書、来てねえよ」
「え、何でッ?!」
そんなの、こっちが知りたい話だ。まあ、来ても欠席で返信するが。
「引っ越したからか」
「あ、成程! そっかそっか、菜月もお前に会いたがってたぞ!」
「そう」
「田中は変わんねえな、本当若いよ」
まあ、家庭も無い独身貴族だしな。
「小林は、良い感じで老けたよ。良い親父、って感じでさ」
「やっぱり? 決め手はこの、髭かなー」
暢気な奴だよ、お前は。俺がどんなに必死で生きているか、お前は知らないんだから。独り、片っ端から引っ掛けた女を食って生きているなんて。

 お前は、知らない。

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あきゅろす。
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