幻滅デイリー 痛い、と足掻けよ 「ぼくはね、君が不幸になってしまえとよく願うんだ」 涼しい顔付きで、彼は言った。優しい口ぶりで、彼は言った。 「それ、どういう」 「黙れよ、今はぼくが話しているんだから」 口を、辞書で塞がれた。 完全無欠、とは彼の事を言うんだろうなと思っていた。涼しい顔付き、優しい口ぶり、決して驕らない態度。どれを取っても、敵わない人だと思っていた。学業優秀、スポーツ万能なんて当たり前。家柄だって、誰も近付けないレベル。 「君は、一体何だ。彼女に許しを乞いながら生きているなんて、馬鹿じゃないのか。綺麗過ぎて、反吐が出るんだよ」 眼鏡の反射角からズレたところから見えた、冷ややか過ぎる目付き。 「君の家は、金融だったね。そして、彼女は君の父の会社から金を借りている。何故、君が後ろめたく感じなければならない。ビジネスに、子供が首を突っ込むなよ」 「それは」 何を言おうとするのか、自分でも言葉が出て来ない。 「同情か? それなら、止した方が良い。彼女が惨めになる、プライドが人一倍高そうだから」 「何なんだよ、一体」 ようやく出た言葉が、それだった。 「ぼくは、言っただろ。君が不幸になってしまえば良い、と願っているだけだよ」 [戻][進] |