幻滅デイリー
彼岸華は、曼珠沙華
ふと見掛けて、彼女を思い出した。
彼が何か言った、という事だけは解った。
「だけど、気味悪いよな彼岸華って」
「え? あ、はい?」
ちゃんと聞いていなかったせいで、悪いとは思いながらも聞き返してしまう。
「彼岸華が、気味悪いって言ったんだよ」
「そう、ですか……」
「何だよ」
気味、悪いのか。
「いえ、何でも」
何も無い様に装うのは、得意だ。
「変な奴だな」
彼は、暫く訝し気に俺を見ていた。
彼岸華の似合う彼女は気味が悪いのだろうか、そればかりが思考の八割を占めていた。昨年の彼岸を思い出して、思わず上を向く。いや、気味が悪い事は無かった。むしろ、息を飲んでしまう程の儚さと妖しさとが相俟って喰われてしまうかと思った。出来る事なら、喰われたいと思った。浴衣に手桶と杓を持ち、菊の花を携えて。
決して、気味が悪いわけじゃなく。ただただ、同い年の彼女が信じられずに魅入っていた俺がいたのだ。
墓への花道が、赤い彼岸華が彼女を更に引き立てていた事なんて。きっと、俺しか知らない事実だ。
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