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幻滅デイリー
彼女、落丁ですよ!
 かつて、クラスメイトには歩く電子辞書と呼ばれた少女がいた。何でも知っていて、それをひけらかす事は無い。訊かれた時だけ、それを話す。それ以外は、表情を変えずに黙ったまま。いや、話している時も専ら無表情だ。言っちゃ何だが、隣の席に位置する俺が彼女の笑った顔を見た事が無いのだ。

「さっきから、一体何ですか」
ジッと見ていたのがバレたか、顔を前に向けたまま彼女は小声で言った。
「何かあるなら、言って下さい。気になります」
「君さァ、博識だよね」
彼女の顔は、変わらなかった。鉄面皮とはまた違うだろうけど、何と言うか綺麗な顔立ちをしているのにそれは絶対的に崩れないと言うか。
「いえ。わたしが博識だとしたら、世界の殆んどの人口が、博識を占めるでしょう」
「謙遜しなくて良いよ」
俺も、前を向く。授業中なので勿論、教師が教壇に立っている。酷く、つまらない話。言ってしまえば、彼女の話の方が数段上だ。
「それだけですか」
彼女は変わらず、ルーズリーフに沢山の数式を書き記す。みるみる内に、一頁埋まっていった。面白い、と言うか凄い。
「だけどさ、君って落丁だよね」
俺は窓側の、彼女の手を握った。

「こうしても、君は変わらない」

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