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幻滅デイリー
メモリー@ナンバー
 あ、と思う。CDショップ帰りの午後、彼女は書店で辞書を物色していた。しかし、待てと本能が俺に囁く。生憎と今日は、コンタクトレンズをしていない。ぱくん、と折り畳み式のケータイを開けて彼女のメモリーを出す。あれ、もしかして彼女が彼女でなくて、彼女が電話に出たら彼女に何て言えば良いんだろうと踏み止まった。

 ケータイを手にしたまま書店に入り、目を凝らして辞書コーナーに立つ彼女を見る。凄い集中力らしく、俺が見ていても全く気付かない。やがて独和辞書を取り、レジへと踏み出す際に目が合った。良かった、彼女だった。ん? これは、良かったのか?
「やだ、声かけてくれれば良いのに」
と言いつつ、俺の手にあるケータイを見る。
「誰かに電話?」
「いや、うん、えっと……、良いんだこれは。ほら、辞書買って来なよ」
と促して、ケータイの画面を見る。操作していなかったので、節電モードになっていた。適当にキーを押すと、画面が明るくなる。それと同時に表示される彼女の名前。
「……君に電話しようとしていたなんて、恥ずかしくて言えないじゃないか」
通常の待ち受け画面に戻すと、彼女が満足そうに走り寄って来た。

「これから、どこか行かない?」

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あきゅろす。
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