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幻滅デイリー
あなたを、下さい
「君の遺伝子が欲しい」



「すっげ、深爪」
痛くないのか、と訊くと「いつもの事だから」と答えられる。と言った彼は、売れっ子ジャズピアニスト。短ければ短い程に、都合は良いと言う。屈強な男の爪。この指先で、ピアノを弾くとはと改めて感心する。爪すらも、ある意味商売道具なんだよなァと思わず触って触れてしまった。
「あ」
慌てて、手を離す。
「ごめん、勝手に」
「いや、そうじゃなくてさ。もっと、見せて欲しいと思って」
「え」
ぐ、と握られてまじまじと見つめられる。あまり自慢出来る手でも無い手を、じっと見られて妙に気恥ずかしい。
「良いな」
「は?」
「良いな、って思って」
手首、手の甲、指、爪、指先、掌とまじまじと。まるで、穴が空きそうになる程に。
「何が」
「爪が」
この、爪の事だろうか。この、女爪の事を言っているのだろうか。
「爪ってさ、遺伝らしいね」
「知らなかった」
自分の左手を見て、感心する。勿論、遺伝という事実に。



「俺の妹で良かったら、紹介しようか?」
冗談混じりで言ってみたら、彼は笑って俺の爪を指の腹で撫でた。

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あきゅろす。
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