御題集 起動せよ ジ、ジジッ、ガ、ガガッ、ビ、ブッ、ブブッ、ビーッ、ガーーーッ。 脳内に響き渡る電子音が、吐気を催す。 「応答せよ、応答せよ」 ディスプレイには、何も映っていない。ただ、男の声という事は解る。 「はい……、こちら」 こちら? こちらって、どちらだ? 「すみません、こちらがどちらか解りません」 「ふざけるな、もういい暫く帰ってくるな!」 ふざけてなどいない。 ツーッ、ツー、ツー。 「……再○○○○! 再○○○○ッ!」 すみません、何ですか。一体、何なのですか。聞こえません、聞き取れません! 大佐、私には到底無理であります! 暗闇に、光が1つ。手を伸ばせば、砕け散る。ディスプレイは、壊れてしまった。 「応答を、応答を願います。こちら、こちら………」 シンと静まり返った機内は、冷たい機械。返事は一向に無いだろう、という事は知っていた。 俺は気付いた。俺は、俺自身の名前さえ思い出せなくなっている事を。 「応答、応答願います! こちら、こちら!」 起動せよ。 ジ、ジジッ、ガ、ガガッ、ビ、ブッ、ブブッ、ビーッ、ガーーーッ。 通信は、再び途絶えてしまった。(了) [前][次] |