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御題集
哀愁なんか
 後ろ姿は、追い掛けたくなる衝動。



 女は硝子戸を開ける音で、目が覚めたといふ。
「こんな遅くに、どちらへ行かれるのですか?」
草履を履いて、肩掛けを身に纏い女は追い掛けていく。男は振り向きもせず、外套の前をかつきり閉める。何も入れない様に。

「あの人は、私に何も言わずに出て行つた」
彼女は俺に語つた。俺は一人すら、幸せに出来ない男だ。ましてや、哀愁なんかは無い。

「哀愁なんか、何も役に立ちはしません。それでも、あなたは哀愁なんかを求めているのですか」
彼女は笑つていた。その笑いは、女にしては狂気地味ていた。

哀愁にしがみついた女。
哀愁にしがみつけぬ男。

 二人の男女は、誠に滑稽だつたと親父はよく言つていた。





 哀愁なんかを見せたつて、何も変わる事は無いんだ。(了)

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