[携帯モード] [URL送信]

白樺勘定男
≫肆の幕
「硬い髪だなあ」
「な、何奴っ」
殿にお会いしようと急いでいたのに、髷を引っ張られて首の筋が伸びる。振り向けば、艶やかな烏の濡れ羽色の髪を靡かせた男が笑っていた。見た事が無い男だったが、新入りだろうか。しかし、俺には連絡も入らぬかと思うと嘆かわしい。
「やあ、お初に御目にかかります。髪結いの並木鳥風と申す」
「無礼ではないか」
しばし睨み合い、火花を飛ばす。しかし、俺が一方的に睨んでいるに過ぎなかったが。すると、馴れ馴れしく肩に手を回す並木。
「んー、初々しい反応だねえ。どうだい、今夜は空いてる」
「うつけがあああっ」
その手を捻り上げ、床に並木を押し付ける。右の面が床にぶつかるのを見て、少しだけ苛々が晴れた気がした。
「殿は、少し綺麗過ぎてねえ……」
「未だ言うか、この」
捻り上げた手と空きの手を合わせて、更にそのまま関節と逆方向に引っ張ってやる。
「ねえ、名前訊いていないんだけど……」
「痛くないのか、貴様……」
武道には精通していないものの、こうされては何者もが黙ると聞いたはずだが。
「さあねえ……、慣れているのかなあ……。痛みに強いのか、痛みが心地良いのかなあ……」
どこ吹く風で答える並木が気色悪くなり、その手を離す。
「おやあ……、何で放すんですか」
俺によって捻り上げられた腕を摩りながら、にやにやと笑っていた。
「俺の名は、榎戸だ。解ったなら、とっとと失せろ」
「はいはい、榎戸様。また、ね」
叶うならば、もう二度と会いたくない種類の人間だった。

[*戻][進#]

6/23ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!