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白樺勘定男
≫参の幕
「榎戸殿、殿が帰って来られたそうです」
「そうか」
そろばんを弾きながら、葛木が言う。ここは相変わらず、質素で粗末な部屋だ。俺は帳面から、節約出来るところを探す。まあ、それも難しいと思われるが。
「殿にも、久しく御目にかかるな」
「実は私、恥ずかしながら殿にお会いした事が未だ無いのです」
まあ、その様な事もあるだろう。金を工面しに奔走しているなどと、腹心の者にしか言えぬ。
「どの様な方なのでしょうか、殿は」
「一言で言うならば、苦労性」
「苦労、性……」
咀嚼する様に、葛木は復唱した。殿は見目も姫様の兄らしく、二枚目で整っていらっしゃる。しかし、城の財政難と殿の苦労性が相俟って奥方は未だに見付からぬのだ。
「しかし、何故俺の周りはこうも見目の良い奴ばかりが揃うのか……」
葛木も見目は麗しく、殿の寵童と言っても差し支えは無い。
「何か、おっしゃりましたか」
「いや」
一度、会いに行くべきかと俺は立ち上がった。

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あきゅろす。
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