白樺勘定男 ≫弐の幕 「姫様が呼ばれているので、これにて」 席を立ち、南蛮走りで華姫様の元へ向かう。唖然としたままの葛木を置いて来るのは殺生な気もするが、このままでは俺の命も危ういのだ。 「遅い、遅いではないか榎戸。次、遅ければ夜這うからな」 「申し訳御座居ませぬ、姫様」 豪華絢爛な姫の部屋で正座をし、手を付いて深々と何度も頭を下げる。頼むから、夜這いだけは堪忍して頂きたい。 「まあ、悪いと思っているならば良い。今日は、買うて来て欲しい物があってな」 「はあ……」 どうせ、ろくな物では無いだろう。火薬か、刃物か、種子島か。とかく、この姫は物騒な物が好きなのだ。以前も大砲を所望し、俺に却下された前科もある。 「して、何を御所望で御座居まするか」 「張り形じゃ、今すぐ買うて参れ」 張り形とは、いわゆる女子用の自慰具である。 「……は、張り形を何に使うので」 己で己の馬鹿馬鹿しい質問に、呆れてしまう。する事は、一つでは無いだろうか。何と野暮な男だろうか、俺は。 「そうじゃの、榎戸にでも入れてやるか」 「な……、ななな」 嫌な汗が、額から頬へと伝う。姫の顔は、本気だった。 「ひ、姫様っ」 「あっはっは、榎戸。そんなに引き攣った面をするで無いわ、不細工」 一段高くなった畳から、俺を見下す姫。容赦の無い、視線が痛い。 「は、はあ……」 「まことに、お前をからかうのは楽しいものよ榎戸。ほれ、上を向け」 ぐい、と扇子で顎を引き上げられる。 「うっ」 「わたしは、男に不自由などしておらんわ」 そう言って、姫は俺を突き飛ばした。 [*戻][進#] |