白樺勘定男 ≫拾捌の幕 一定だった、薬研の音が止む。 「お前、俺と出ていく気は無いか」 「随分と、手前勝手な話だな」 立谷は俺の顔を見る事も無く、薬匙を動かす。 「すまない。しかし、俺の勝手だ。だから、お前の自由だ」 「たわけ」 「そうだな」 俺は何も言い返す事も出来ず、俯いた。 「城が傾こうと、今の場所は捨てられんな」 何という愚問だろうか、訊くまでも無い。 「すまん、聞かなかった事にしてくれ」 「今更か」 「俺は明日、城を出る事にした。お前にしか、言っていない」 静かにその場を立ち、襖に手をかける。すると、袴の裾を摘まれた。 「何時だ」 「は」 「出るのは何時だ、と訊いている」 相変わらず、読めない男だと思う。 「あ……、明け方だ」 「そうか。では、最後の仕事をしろ」 立谷に蹴られ、追い出された。 「……数馬」 俺は独り明日の朝、日の出も見ぬうちに城を出るのだ。 [*戻][進#] |