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白樺勘定男
≫拾漆の幕
「榎戸様」
「のわっ」
驚きの余り、声が裏返ってしまった。このままでは、いずれ死んでしまうやもしれん。そればかりは、御免だ。
「ひ、平木田……」
ほう、と息を吐く。
「あやめ、と御呼び下さい。榎戸様」
「それは出来ん。俺と平木田は、夫婦でもあるまい」
一歩、距離を置く。
「俺は例の毒を代わりに飲んで下さった、榎戸様に惚れたのです」
「いや、だから、それは殿の為であって……」
大きく左右に首を振って見せたが、まるで効果は無いらしい。
「榎戸様……」
「近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い」
段々と面が近付き、俺は面を背ける。
「やはり、あの行き遅れが榎戸様を」
「それは違……っ」
「やはり、そうなのですね……」
くっ、と口惜しい気に平木田は唇を噛んで走って行った。何故だか、嫌な予感が過ぎる。自然と、俺も走り出していた。
「止まれい、平木田」
「いくら榎戸様の御命令だとしても、それは聞けませぬ」
廊下を南蛮で走るが、平木田の若さ故の身軽さには追い付かない。そうして、姫様の部屋に辿り着く。平木田はそのまま、襖を力強く開ける。しかし、姫様は俺の方しか見ていなかった。
「榎戸、昼間からわたしに会いたかったのか」
俺にしな垂れかかり、軽く瞼を閉じる華姫。すると、平木田がその間に入る。
「華姫っ、お、お前は男だろう」
「それがどうした」
開き直った様子に、平木田が唖然とする。だが、一目で華姫が男と解る人間などいなかった。十年以上勤めている俺でも、華姫が男である事を先日知ったばかりだ。
「俺は、榎戸様を慕っているのだ」
「はは、わたしは榎戸を愛しているぞ。勿論、榎戸もわたしを愛しているしな。つまり、相思相愛だ」
「榎戸……様、それは誠に御座いますか……」
「そうだな、榎戸」
俺は。

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