[携帯モード] [URL送信]

白樺勘定男
≫拾陸の幕
 俺は何か応えねばならない、そうしなければならないのだ。腕を組み廊下を歩いていると、誰かと擦れ違う度に好奇の目に晒されている様な気がした。なるたけ、姫には逢わない様にしたい。それだけだった。
「あー、榎戸様」
「並木か」
思わず、びくりと反応してしまう。
「相変わらず、硬い髪だなあ」
「触るな、たわけが」
べたべたと触られ、その手を払う。
「姫様からお聞きしたのですが、榎戸様。姫様の男になるというのは、本当ですか。ならば、俺にちと味見を……」
「止めろ」
伸ばされた手を再び払い退け、並木の面を睨みつける。
「おや。すると、榎戸様は城に婿入りするという事ですか」
「違う、俺は……」
「おや。違うのですか、姫様は閨着を選ぶのに夢中でしたよ」
また、金が嵩むのかと力が抜ける。いや、そうでは無い。
「俺は、もうしばらく一人で良いのだ」
「では、男になるというのは可と」
「そ、そういう意味では……」
どう言えば良いのか、俺にはもう解らぬ。
「それにしても、榎戸様はえり好みが激しいですねえ。いや、我儘というべきでしょうか。姫様や通いの毒味役、俺もそうですし。もう、選び放題ではありませぬか」
「お前は、もう黙れ。黙っておけ。さもなくば、俺が貴様に引導を渡す。解ったな」
全く、と俺は苛々しながら頭を掻いた。

[*戻][進#]

18/23ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!