白樺勘定男 ≫拾伍の幕 「解せぬ」 「何だ、いきなり」 俺は知らず知らず、立谷の元に来ていた。立谷はこう見えて、口の堅い男だろうと判断する。元より、話す相手もいないと以前言うていたはず。 「解せぬ解せぬ、と繰り返されても困る」 「相談しても良いか」 ようやっと口から出せた言葉は、何とも弱々しいものだった。 「したいから、来たのだろうに」 黙々と薬の処方を書き付け、俺よりも余程仕事をしている様だ。ああ、何と俺は駄目な男なのだろうか。 「いつまでも居座られては堪らん、早う言え」 墨液が無くなったか、硯の上で固形墨を動かす立谷。 「どうやら、姫様に好かれてしもうた様なのだ。なあ、俺は一体どうすれば良いのだ」 「抱いてやれば良い、もしくは抱かれてやれば良い話だろう。万事解決、ほら出ていけ」 左手を動かされるが、俺はふと気付く。 「なあ、立谷は姫が男だと知っていたか」 「……お前、知らなかったのか」 唖然した表情で、こちらを向く立谷。俺は、何故か無性に恥ずかしくなった。 「むしろ、昨日知った。笑いたければ、笑え」 「あっは、あっはっはっは……、あはは……、はーっはっは……、はあはあ……ひひひ」 笑いすぎで引き付けを起こしている立谷を傍目にし、畳んであった病人用の蒲団に潜り込む。 「もう、解らぬ……」 「まあ、抱かれるより抱く方が良いと思うぞ。何より、痛い思いをせずに済むからな」 蒲団を捲り、俺を覗き込みながら優しいのか優しく無いのかよく解せぬ言葉を掛けられた。 [*戻][進#] |