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白樺勘定男
≫拾弐の幕
「くっ、体の調子が戻らぬ……」
「榎戸殿、風呂は如何致しまするか」
飯もまともに食えず、常に目眩が伴う。葛木に自室まで運んでもらい、蒲団を敷かせる。平木田と姫は帰らせたが、顔を合わせぬ様にさせなければと思った。
「おお、そうだな……。桶に湯を張り、手ぬぐいを用意してくれ。風呂に入る、気力も無い……。今日は、すまなんだな葛木」
「いえ……」



「では、失礼します」
「ああ、忝ない」
湯の入った桶で手ぬぐいを湿らせ、固く絞る。それを広げて、体を拭いていく。それを繰り返し、下帯と着物を替える。
「ふう……」
文机に向かう気も起こらず、そのまま横になる。すると、障子の外から微かに声がした。
「誰かおるのか」
「榎戸様、殿が御呼びなのですが……。辛い様ならば、私から申しておきまするが……」
障子が静かに開き、小姓が正座している姿が見えた。
「いや、殿が御呼びならば行こう」
俺は重い体を立たせようとしたが、そのまま蒲団に崩れた。目眩で景色が歪んでいるせいか、平衡感覚が失われている様だった。

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