白樺勘定男 ≫拾壱の幕 「う、うう……」 目覚めたのは、既に日が落ちた頃だった。 「榎戸っ」 「ぐえ」 喉の奥から、思わずくぐもった声が漏れる。 「榎戸、榎戸榎戸榎戸、榎戸榎戸ーーーっ」 「姫様、し、絞まっております」 首に回された腕を何度か軽く叩き、放す様に合図をする。 「わたしは、榎戸が死んだら……」 「ひ、姫様……」 泣き腫らした姫の顔が、やけに艶めいて見えた。ひた、と見つめられて不覚にも体温が上がる。 「何で遊べば良いか、解らぬでは無いか」 「………」 その瞬間、何かが腿の上に乗る。 「お前は、毒味役の童子ではないか」 「申し訳御座いませんでした、榎戸様」 鼻の先が付きそうな程、顔を近付ける童子。 「俺の為に……」 「いや、気にするな。俺も毒と知って、喰らった身だ」 童子の頭を撫でると、小さく身を震わせた。怖かったのだろう、良し良しとそのまま背中に手を回して安心させてやる。 「榎戸様……」 「おい、どうでも良いが俺の部屋での乱交だけは止めろよ」 薬研で薬草をすり潰しながら、立谷が言う。すると、それを合図に姫がすっくと立ち上がった。 「そもそも、この童子は何だ榎戸。わたしという者が有りながら、お前という奴は」 「この童子は、毒味役で……」 「平木田あやめ、と申します。我儘姫様」 上から見下す様な姫と、下から見上げる様に睨む平木田。俺は思わず、ひっと息を飲む。 「おやおや、榎戸は人気者で羨ましい事だな」 「羨ましいならば、変わってくれ」 俺は頭を抱えて、蒲団に潜り込む。すると、そっと蒲団の端が捲られる。そこには、幼い平木田の顔が見えた。 「榎戸様、俺を奥にして頂けませぬか」 畳に三つ指を付き頭を下げられるが、俺はそれを呆然と見ている事しか出来なかった。しかし、姫に抱き寄せられる。 「たわけ、榎戸はわたしの物だ」 「俺は、榎戸様に訊いている」 「その前に、お前は男で童子では無いのか」 ぴしゃり、と言い付ける姫。 「俺が男だ、といつ言った。俺は女だ、この行き遅れ」 「撤回しろ、童子」 段々と俺の体に、負荷が掛かり始める。気分が悪いせいか、未だに体も上手く動かぬ。その前に、葛木はどうしたのだろうか。しかし、この状態は苦しい。良い解決策は無いかと並木を見遣るが、奴は微かに鼻で笑うだけだった。 「もう、いい加減にしてくれ」 [*戻][進#] |