自宅謹慎(1)
ケンカした翌日から、俺は3日間の自宅謹慎となった。
始めは謹慎処分になったことに憤慨した母親だったが、ケンカの原因を担任から詳しく聞いた家族は、友達のためにケンカができるようになった虎太郎の成長ぶりに感激し、よくやったとなぜか褒められた。おかしくないかそれ?
お母さんも龍成達のことは心配していた。
ヤクザという家業は決していいものではないし、関わり合いにはなりたくはない。でも2人の人格まで否定するのはおかしいことだし、あの子たちが悪いことをしたわけではないと。
――――誰も親を選んで生まれてくることはできないんだから―――――
両親の言葉が、俺は嬉しかった。
クラスの奴らみたいに、あの2人のことを否定されたらつらかったから。
「早く登校してくるといいわね。その時は笑顔でむかえてやりなさい。周りがどんな態度をとろうと、こただけは違うってとこ見せてやんないとね」
お母さんも先生と同じように励ましてくれる。
「でも、こたの謹慎が解ける前に帰ってきたら、かっこわりいな。ま、考えなしにケンカしたのおめえが悪ぃ。やり合うにしてもこれからはもっと頭使え」
お父さん・・・さっきはよくやったって褒めてくれたじゃんか。
何もしないで家に居るのは暇だ。一応3日分の課題プリントはもらったので取り組んではみたものの、俺って真面目だから一日で終わらせちゃったし。
あいつらどうしてるかな・・・
電話、してみようかな。
居間に下りてみると、お父さんが寝転んで新聞など読んでいる。店開けっぱなしでいいのかよ。商品盗まれないのかと心配になる。
親に電話の内容を聞かれるのはなんか・・・嫌だ。こっぱずかしい。お父さんが店に戻らないかぎり、しばらく電話は無理なようだ。冷蔵庫からペットボトルを取り出し、また2階の自室に戻った。やることもないのでベッドに寝転んで漫画を読む。
ああ・・・暇だ。
謹慎2日目にして完全に手持無沙汰。もちろん外出はできないので食べる、寝る、ゴロゴロするの繰り返し。あいつらも暇なのかな。いや、事件とかあって大変なのかな。
山城邸に居るのか、京極の本家に居るのか、2人とも一緒に居るのかそんなの全然分からない。こんなことならもっと早く連絡しておけばよかった。
連絡がなくなってからもう12日が経つ。
「おい、こた入るぞ」
兄ちゃんと姉ちゃん達が俺の部屋にそろってぞろぞろと入って来た。何事?と思いベッドから体を起こすと、長男の武兄ちゃんから紙袋を手渡された。開けてみると、
「これって・・・」
携帯電話。
びっくりして兄姉達を仰ぎ見ると武兄ちゃんが照れくさそうに言った。
「お前には今、必要なんじゃないかと思ってな」
「昨日兄姉会議してさ、みんなの意見が一致したところでさっそく買って来た。選んだのは華子と蝶子だけどな」
二男の将兄ちゃんは姉ちゃん達のセンスが合うかどうか分からないから、早く開けてみろと袋を指さしながら言った。
「うわ、、」
シルバーの折りたたみ携帯。色は好き好きがあるから無難なのを選んだと華子姉ちゃんが言う。
「私の携帯と機種同じにしたから、登録の仕方とか教えてあげるわ」
蝶子姉ちゃんがニッコリ笑って話す。
「・・・あ、、ありが、と」
視界がぼやけた。携帯をギュッと握りしめる。
「こた、なに泣いてんの、もう、泣き虫じゃなくなったんじゃなかったけ」
「うっ・・だ、だって・・・」
「ちょっと、携帯濡らさないでよ、高かったんだから。大事に使ってよね」
「あ、でも、これ・・・どうやって、、、?」
携帯は高校生から。それは家訓。うちはそういうのは厳しい。兄姉もそうやって厳しく親に育てられたきた。なのに、俺だけ特別なのは・・・
「おやじとお袋には反対された。例外は無いって。だから、俺達が責任持つからってことで、甘やかすなって散々言われたけどな」
武兄は渋る両親を説き伏せてくれたそうだ。
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