悪の巣窟
「あのさ・・・先生」
新学期になり1週間。
3年生になってクラスの学習委員になった虎太郎は、職員室に今日の課題について聞きに来ていた。目の前の机で帰りのHLの準備をしている数学の教師は、去年の担任だった。
「おう、綾瀬、お前今年は学習か」
「はあ、」
なりたくてなった訳でなく、余り物だ。毎日の宿題の確認で職員室を訪れたり、クラス全員のノートを集めたり、課題提出の取り立て、朝自習の出欠確認などなど、そんな重たい仕事が多くとても厄介な委員会なのだ。どのクラスでも神経質そうなメガネタイプの真面目な生徒が受け持つが、虎太郎のクラスにはそういう人物はいなかった。
残りものには福がある・・・よく言ったものだ。虎太郎はみんなが嫌がったこの仕事が少し好きだ。それは・・・休み時間ごとに結構教師に頼まれる仕事が多く、「委員会の仕事」という名目で嫌な奴らから逃げることができるからだ。
「今日の数学の宿題、プリントだけでいいですか?」
「ああ、今日宿題出さなかった奴らは、もう一枚追加するから、ちょっと待て」
先生は煩雑な机のどこかに置いたプリントをゴソゴソと探している。
「あの、先生、ちょっと聞きたいことあるんですけど」
「何だ?」
虎太郎の話を聞きながらも、目はプリントを探している。印刷してここに置いたはずなんだがなぁと独り言を言っている。
「俺・・・何であの二人と一緒のクラスなんですか」
ガザガサガサ!!教師の机に積まれていた本が雪崩のように床に落ちた。
「・・・・何の事だ?・・・綾瀬・・」
動揺してる・・・虎太郎はそう思った。やっぱり、絶対先生達が仕組んだんだ・・・
「クラス替えのことだよ」
落ちた本を一緒に拾ってあげながら、先生を見るが目を合わせてくれない。
「そ・・・それは、偶然だ!」
くそぅ・・言いきったな・・・しらを切りとおすつもりだな・・・
「7クラスもあって?3人一緒ってあり得るかよ・・・」
絶対仕組まれてる。
1年の時は小学校の先生と親の思惑で同じクラスだった。まあ、それは俺を心配してからの行動だと思うので仕方ないし、お母さんが頼み忘れた2年では念願のクラス別だった。
親の言葉がクラス替えに大きな影響を及ぼしたことを知った虎太郎は、1人で大丈夫だと、自分も成長したんだと、母親に散々アピールした。母親もそんな息子に1人という経験も大事だわね〜と言い、息子の言葉に同調してくれた。
なのになぜ3年になって再びあいつらと同じクラスに!お母さんは関与していないはず。結局同じクラスになった事を知った母親は「これは運命ね、神様がちゃんと見ているのよ」と嬉しそうに興奮して言った。悪魔の間違いじゃない?
ということは、疑うべきは先生達だ。
「綾瀬、本当に偶然なんだ。いろいろ気にすると禿げるぞ」
向かいの席に座る学年主任の先生が、不満いっぱいの俺に対して言う。
嫌、絶対うそだ。だって学年主任の目も泳いでいる。
龍成に椎神に俺・・・そして龍成に付きまとっている連中の中でも札付きの問題児を集めたようなクラスの男子。不登校や気の弱そうな奴など1人もいない。女子も何だか一癖も二癖もありそうなうるさくて気の強そうな連中ばかり。そして担任は去年新採用でやって来たばかりの何事にも熱血で、うっとうしいほど「青春しようぜ!」とクラスを盛り上げようとする、新卒2年目のムッチョな体育教師。なんだこの面目は。
A den of evil-------------(悪の巣窟)----------------------
始業式、体育館に並んだ我が3年7組を見て周りはそうつぶやいた。(俺もそう思ったよ)しかも7組だけは別校舎。お日様がよく当たる南校舎3階で、穏やかな一年間を過ごすはずだったのに、それが3年生の特権なのに。3階は6クラスしか入れないからって、なんで7組は北校舎の1階なん。しかも小さな中庭をはさんで職員室から一直線上にあるこのクラス。
ーーー何かが起こったら職員全員で突っ込むぞ!!ーーー
もう、先生達の考えばればれですって・・・
2年の2学期、修学旅行、学園祭、とにかくいろいろなことで他校ともめにもめた西中の不良連中。修学旅行なんて合同で行こうとしていた近隣校と暴力沙汰起こして、保護者会も開かれ、中止寸前までの事態に発展した。学園祭もその余韻を残し、心配する保護者が警備する厳戒態勢の中で細々と行われた。でも、先生たちが心配していた他校生徒との争いが、それ以上に発展しなかったのは思いもよらぬ人物が動いたからだ。
京極が動いた。みんなが口々にそう言った。
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