震える心(1)
(▲ 暴力的な表現があります。苦手な方はご覧にならないでください。)
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殴られて、血反吐を吐いてもまだ殴り続ける。
骨肉の形が変形してもそれは止まることがなかった。
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窮鼠と化した男が殴りかかってきたがその腕を軽くひねり上げる。右腕がふさがった龍を狙い別の男が拳を繰り出すが、空いた拳一振りでなんなく撃沈する。4人で同時にかかろうと、がっしりとした体から繰り出される攻撃は重く、当たれば体ごと後ろに吹っ飛び、想像以上の素早い動きは次の攻撃に移るまでの隙なども与えない。しかもパンチが上手くヒットしても、極悪龍は表情も変えはしない。これだけの人数がいるというのに相手に全くダメージを与えられずにいた。
ボキッと骨が折れるような異様な音が、もう何度この密閉された空間に響いただろう。膝蹴りを繰り返される腹は肋骨ごとやられて内蔵に突き刺さる痛みを与え、蹴り降ろされた顔がコンクリートの地面に押しつぶされミシッと鈍い音を立て、悲鳴を上げる間もなく口の中にかかとを落とされるとくぐもった声が喉の奥に消える。
殴られて倒れた男が後ずさった手に触れたのは鉄パイプ。無我夢中でそれを掴み迫る極悪龍にがむしゃらに振り下ろした。しかしそれはまたもや難なく受け止められ、逆に凶器を奪われてしまう。
「これの使い方はさっき教えてやったよなぁ」
手にした鉄パイプをペチペチと手のひらに打ち付けながら、依然表情を変えること無く近づいてくる龍にこのままでは殺される・・・・と背を向けて逃走を図ったが、そのとたん後頭部にガツンと何かが打ち付けられて一瞬目の前が真っ暗になった。前のめりに倒れると同時にカランカランとパイプが顔の横に落下した。
倒れ伏した目の前に落ちた鉄パイプ。それを掴む手が見えてさらなる恐怖を感じた。
「ぐわあっ」
横っ腹を蹴られて仰向けにひっくり返された。頭上には鉄パイプを再び握りしめた龍がいた。血を吹き出して歯が飛び散るあの恐ろしい光景が脳裏に甦る。
「や・・・やめてくれ・・・た・・・・たす・・け・・」
龍の瞳は暗い闇色。
それが鈍く光り、助けを乞う最中呻く男の口の中に容赦なくパイプを突っ込んだ。くぐもった悲鳴のような声は喉の奥を圧迫する侵入物によって遮られ、両手でパイプを掴んで押し戻そうとするが上から押し込まれる圧倒的な力には勝てず、体をひねりのたうち回りながら声にならない絶叫を上げた。
次々に仲間をやられ、助かるためには逃げるしかないと、数人がドアに向けて走り出した。
「ひっ!」
「逃げるんですか」
ドアの前に立ちふさがる死神に慌てふためき声を上げるが、背後からは龍になぶられる仲間達の悲鳴が聞こえ、逃げ場を失った連中はその場で打ち震えるほか無かった。
そんな手負いの追い詰められた者にさえ、死神は容赦のない嗜虐行為をその身に与える。倒され地面に伏した男の背を踏みつけて腕を無理矢理後ろ向きに引き上げた死神は、痛みに声を上げる男に問うた。
「この指で・・・あれに触れたんですか」
「ち・・違う、俺は何も・・・・うぐぁ!!」
背中にひねり上げた腕はそれだけで筋が切れそうな激痛が起こるのに、死神はその先の手首を掴み上げ指の関節を逆方向に折り曲げた。
「ぎゃがああああああ」
指の先があらぬ方向に曲がり関節も骨も複雑に折られた男は、目をむき出し口からダラダラとよだれを垂らし未だ拘束されたまま痛みを与え続けられている。常軌を逸した暴力にあちらこちらで無惨な悲鳴が上がる。
死神は次の生贄を見下ろすと、這いずって逃げる脚を踏みつけ、同じように腕をひねり上げた。
「た、助けてくれ!お、俺は本当に、み・・・見てただけだ!何もしてない」
「ふうん・・・」
「ぐうっ!」
拘束していた腕を放し、後頭部に足を置いた。
「そう。なら指はいいや。そうだな・・・・・・・・・・・じゃあ目にしようか」
「ひ・・ひいっ!!」
踏みつけた足に徐々に力がこもる。コンクリートに接触する額と鼻先がミチミチ音を立て始めた。
「や・・やめてくれ・・・たす・・」
「あれもそう言ったはずですよ」
死神は大がまを振り下ろすように、自らの足を叩き付けた。
鮮血飛び散るこの残酷極まりない状況に千加は恐ろしさのあまり目をつぶっていたが、断末魔のような叫び声が耳をつんざくのは塞ぎようがなかった。京極と椎神の暴力はすでに暴力と言える域を超え、残虐な蛮行をものともしない悪鬼と化していた。
カツン・・・
椎神の靴に触れた無機質な音。それは虎太郎の携帯だった。
開かれたままの携帯をいぶかしげに拾い上げる。
地面に落ちていた虎太郎の携帯は動画モードになったまま、赤いランプが点滅し続けている。それを奇妙に感じた椎神は、携帯の撮影を停止させその記録を操作してみた。
「よくも・・・・・・・・・こんなことを」
撮影された動画を再生した椎神は目をすがめ無意識に唇をかみ締めた。そして足元に転がる男の顔面に固い靴底を叩き付けた。
「ぐわぁあ・・・あ・・あ・・・」
ベキベキと顔面を踏みつけ、折れたであろう鼻をさらに潰す椎神は流血しもだえ苦しむ男を見ながら表情も変えず言葉を放った。
「龍成・・・・・・・・・こいつら、殺しちゃおうよ」
冷たい声が廃屋内に響き、意識のある連中がその言葉に凍りつく中、拳を返り血に染めた龍成の手に携帯を投げて渡した。
椎神から渡された携帯は見覚えがある。これはタロの携帯。
開かれたままの小さな画面に目をやると、そこにはうごめく複数の人間が映っている。
裸体に寄ってたかる男達、異物を挿入される体、苦悶の嘆き・・・
画像を凝視する龍成の眉根がつり上がり、つかんでいた男をそのままゴミのように壁に叩き付けた。
あの虎太郎のありさまを見て、何が起こったのかは容易に想像は出来た。
頭では分かっていたはずだった。
性的な虐待があったことは。
だが、それを目の当たりにしたとき、凶悪な眼孔が悲愴に揺れた。
無数の男によって、陵辱される虎太郎。
貶める罵声に、拒絶を繰り返す声が龍成の鼓膜に張り付く。
――― いた・・・・・や・・・やめ・・・・・ ―――
――― それくらい入るさ、無理やり押し込め ――――
――― や・・・やだ・・・やだ・・さわん・・なぁ・・・ ―――
――― 全員で突っ込んでやる ―――
―――― う・・・・や・・・・・・ぁ ――――
バキ・・・
携帯がつぶれて、床に落ちた。
次回・・・「震える心(2)」
ハンコックのメロメロメロ〜
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