出会ってしまった(逢着)
兄2人と姉2人、その後に生まれた末っ子の僕は、長男の武兄ちゃんとは13歳、一番下の蝶子姉ちゃんとでさえ7歳も年が離れていたので、それはもうかわいいかわいいと撫でまわされて育った。

両親も上4人が気が強く、全員が大胆不敵な性格に育ったので、末っ子はかわいくあれと甘やかし放題に育てた。

その結果、出来上がったのが、甘えん坊で、気が弱く、怖がりで、泣き虫、人見知りが激しく、自分に自信が持てない、貧弱な子供。
それが僕、綾瀬 虎太郎(あやせ こたろう)だった。



小学校に入学した次の日から、虎太郎は担任の先生を悩ませた。

学校に行きたくないと言って家族を困らせ、母親に手を引かれて来ても、教室には行かないと靴箱でしゃがみ込み、お家に帰るーと泣きじゃくった。
甘えさせてくれる6年生に手を引かれ、なだめすかす先生と共にやっと教室に辿り着く始末。
休み時間は誰とも遊ばず、本ばかり読み友達はできるはずはない。だって怖くて人に声をかけることなんて僕には到底できない。

勉強は嫌いではなかった。机に着いている時間は教科書と黒板だけ見ていればいいから。
先生も僕を当てたりはしない。以前当てられて注目されたショックでビービー4時間位泣いてしまってから、先生も手に負えなくなることが分かったようだ。
嫌なのは体育、音楽、図工、生活科。自分を表現するとか、グループ活動とか大っきらい。

救われたのはこんな自分に配慮して、グループ活動の時は必ず大人しい性格の子供たちと一緒にしてくれることだ。
みんな僕が何もできないし、何もしない事をちゃんと知っているからあまり文句は言わない。

そんな僕を苛める男子もいるけど、いじめられても先生に告げ口することさえできない。
靴を隠されたり、当番を押しつけられたり、泣き虫とか陰口を言われたり、それもよくあることだった。
そんな感じで、僕の学校生活は続いた。
何事も関わらず、嫌なことから逃げて、どうしょうもなくなったら泣いて、周りを困らせて。


そんな夢も希望も生気もない、僕の生活が少しずつ変化してきたのは、3年生の3学期があと3日で終わろうとしていた日。
僕の隣に座った人物が、自分の狭い常識の壁を突き破る、とんでもない人物だったからだ。



転校生ーーー京極 龍成(きょうごく りゅうせい)


3学期があと3日で終わるというのにやって来たこの転校生は、3年生にしては背が高く体つきもがっちりとした見た目ジャ○アンかと思わせる凶悪ズラのふてぶてしさをまき散らす悪ガキ風な奴だった。

はい。アウト。僕が関り合いたくないタイプ。
だから自己紹介も聞かず、窓の外に目を向け早く春休みにならないかなと思いにふけっていた。



ガタンと大きな音がして、教室がざわめいた。

視線が集まる先を見ると、クラスでよく弱い者いじめをする男子が(僕もよく苛められる)転校生に足を踏まれて痛がっている。

なんで転校生にあいつは足を踏まれているんだ?

足を踏まれた児童は転校生の足を蹴り返すと、転校生はそれより倍の力で蹴り返したので、児童は椅子ごと床にひっくり転がる。
この騒動にあわてて駆け寄ってきた先生が二人の間に入る。

「やめなさい、あなたたち。一体どうしたの」

「こいつが、僕の足いきなり踏んだんだ。僕は悪くない」

必死に先生に訴える児童。ざわつく教室。そんな中、渦中の転校生は動じることなく、

「てめぇが、足ひっかけてきたんだろうが」

と、子供らしからぬ口調で相手を睨んで言い返した。

ざわめく教室が一瞬で静まり返る。
転入生の横柄な態度に担任教師は言葉を無くし、クラスメイトは怖くて凍りつき、足を引っ掛けようとした奴は半泣き状態で震えている。
クラス全体がピシッと音を立てて凍った。

そいつの机を邪魔だどけ!と蹴って、何事もなかったように自分の机まで来てドスッと座る。

僕の隣の席に・・・・・・・・・

グラウンドが見える窓に一番近い後ろの席は、冬のお日様の僅かな温かさを一番受けることができる、僕の一番のお気に入りの場所だ。



なのに・・・

その僕の席の横に座る転校生のおかげで、ここは一気に極寒の地と化す。



この淀んだ場の空気を一新するためか、先生はすぐに授業を開始する。
後、3日で今学期も終わるから教科書は隣の綾瀬君が見せてあげてねと、動揺しているからか明らかな人選ミスを先生はおかす。

僕の血が一気に下がる。

よこに横柄に座る転校生の方を向くことがまず無理。
広げた教科書を持つ手がガタガタ震える。
動けないでいる僕に「おい」とか何とか言ってるけど、完全無視を決め込む。
だってこいつとは絶対に関り合うなと、僕の中の何かが警鐘を鳴らして訴えている。



「おい、てめぇ」

転校生が怒鳴ったと同時に、僕の机は前に吹っ飛んだ。

シーンと水を打ったように静まり返る教室。
クラス全体が再び凍る。ほんの数分前に体験したこの状況が今、自分を中心に起こっている。
椅子に座ったまま、ただひたすら動かず前だけを見ている僕に、やっと先生が駆け寄り、机や散らばった物を直してくるれる。

「き、京極君、だめでしょう、その、すぐに蹴ったりしたら」

「そいつが教科書見せねえのがわりぃ」

注意してきた教師にイラつきながら、転校生は有無を言わさずガタガタと僕にピッタリと机を寄せた。

くっついた二つの机。
僕は黒板を凝視する。
転校生は僕の方を向いて、おそらく睨んでいる。


自分の方を向かない僕に、転校生は無理やり教科書を奪い取るが、それでも僕は前だけを見据える。

「おい、てめぇ、何でこっち向かねえ」

こ、、怖いから。

「何か言えよ」

こ、、、声が、、、でないから。

「てめぇはしゃべれねぇのか」

そ、そんなことは、ないんだけど。

「ケッ、無視しやがって」


授業中なんて考えは転校生にはもう無いみたいだ。
ビクツク僕が分かっているだろうに、それでも僕に構い続ける。
何をやっても無視する僕にしびれを切らした転校生は、僕の胸倉をつかみなんと・・・





「ぎゃ======−−−」




教室中に響き渡る叫び声。学校でこんな大きな声を出したのは泣き声以外では初めてだった。





転校生が・・・・・首に噛みついた・・・・・・・・・・・・



「なんだ、しゃべれるじゃねぇか」



噛まれた首を押さえてパニックになった僕は、とうとう転校生と視線を合わせてしまった。

彼の眼は、ギラギラとして僕を睨み、凶悪な顔で笑いながら僕を見ていた。

目からポロポロ流れ出る涙。痛みより噛まれたショックが強く、彼の近くにいることが震える体をさらに震撼させた。



それから6時間目が終わるまで、授業中も中休みも僕はいすに座って机に突っ伏したまま、ヒックヒック泣き続けた。
給食は食べず、昼休みも動かず、掃除時間も机を残されて、6時間目が終わってみんながさようならをした後も教室に残って泣いた。
今までの最高記録を更新して泣き続けた僕に、先生はお母さんを呼んで帰宅させてくれた。




次の日、僕は久しぶりの不登校に陥った。
今までも何度か嫌な事があると登校を渋ったが、昨日一日泣き貫いた惨状を知っている母親は、今日だけよと休むのを許してくれたが、僕がそれから学校に行くことはなかった。


凶悪な転校生のおかげで、僕は3年生最後の2日間と楽しいはずの春休みを最悪な気分で過ごし、暗雲立ちこめるの4年生を迎えることになった。

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