花火散る(5)
パンパンパン!!!
足元に投げつけたのは爆竹。
音と火花と煙が蔓延し、相手が見えないくらいモクモクとあたりが煙って来た。
「やめろって言ってんだろ!ケンカすんなって・・・・・うぇ・・・」
(大声出すと・・・・まだ気持ち悪ぃ)
叫んだあと、残りの爆竹を握ったまま、その場にしゃがみこんでうずくまった。
(クソッ・・・マジ1回吐いとくか・・・)
爆竹炸裂後。
椎神は煙の中から飛び出し俺の背中に逃げ込んできて、そのまま気持ち悪がる俺の背中をさすった。
爆竹が炸裂する中、微動だにしない龍成が立っている。それどころか破裂する爆竹を踏みながらこちらに近づいてくる。
そう、何故あんなに怒っているのか。爆竹を踏み越えてまで椎神を目指して猛進してくる理由って何だよ。
俺はなけ無しの気力と勇気を総動員した。気分が悪いのも我慢して立ち上がり、2人の間にガクガク震えながら立ちはだかった。
それから数分後 ―――――
なんとかケンカは中断させたが・・・
庭には3人いるって言うのに俺は1人寂しく花火をしている。
縁側には腕組みをして未だギラギラした目でこちらを睨みつける激高熱視線炸裂中の龍成。
椎神は俺の横に腰をおろし、さっきのケンカは何だったんだと思うくらいの気の抜けようで「吐き気治まったぁ?花火きれいだねー龍成もこっちにおいでよ」などと口走っている。
「こら、椎神あいつまだ呼ぶな。やっと引き離したって言うのに。大体何であいつあんなに怒ってんだ」
「あれはね、コータと一緒に遊びたくてたまらないんだと思いますよ」
「はあ?何で俺?」
「やっとコータがこうやって元気になったからきっと嬉しいんだよ」
「あれがか?そうは見えないけど・・・」
嬉しいじゃなくて、あの様子は怒り心頭の間違いだろ。
「椎神、お前何かやっただろ・・・あのロックオンのしかた普通じゃねえよ」
俺だってよく訳も分からず怒らせる事があるけれど、椎神がここまでやらかすのは珍しい。怒らせた理由にも興味がわいてくるほど龍成の不機嫌具合はすさまじかった。
「何か、最近機嫌悪かったみたいでね」
「そうなのか?俺全然気がつかなかった」
「コータにはね、へどが出そうなくらい優しかったでしょう?」
「?」
優しい?どこが?
確かにいろいろ世話はしてもらったけど、あれが優しいのかどうかは良く分からないな。うーむ。そう言われれば意地悪は・・・なかったな。飯は言うとおり好きなもの作ってくれたし。食わせてくれたのは・・・正直不気味だった。あれがあいつの優しさってやつなのか?よくわからん。
「ずっと苛々してたみたいで。あはは・・・まあそこにとどめを刺したのは私ですけどね・・・」
「やっぱ椎神が何かしてんじゃん」
「でも元凶はコータなんですよ」
「お、俺?」
そうこうしているうちに、これ以上ないくらい眉間にしわを寄せまくった龍成が腕に血管出しまくりで再び接近してくる。芝生の上を歩いているはずなのに、ガシッガシッと足音が聞こえるのは何故だろう。こういうのを幻聴と言うのだろうか・・・
「どけ、タロ。やっぱりそいつぶち殺す」
「龍成、それあんまりだよ・・・。ほら、落ち着いた所で椎神もちゃんと謝んなって」
「あはは〜ごめんね。もうしませんから。あんまり怒るとその眉間のしわ消えなくなっちゃいますよ」
「はぁー・・・お前なぁ・・・」
この人の神経を逆なでするような舐めくさった言い方。龍成にまでそう言い切れる椎神ってそれはそれですごいよ・・・
いつもなら龍成に殴られるのは虎太郎で、謝れと催促するのは椎神の役目なのに、今日は何だか立場が違う。妙な具合にこんがらがっている。
「コータからも言ってやって。コータに触ったのは治療目的だって。ね、そうでしょ、コータ」
治療か?あれが??
そうとは思えない内容だったが、それが元でケンカになったのだろうか。でも何で?
「はっ、タロを引き合いに出せば助かるとでも思ってんのか?治療だと?違ぇだろうが。わざとやりやがって」
「それが分かってるんなら・・・・感謝してほしいくらいですね」
治療だろうが、遊びだろうが、主人のふがいなさを指摘するための行動だろうが、もう今の龍成にとっては椎神の言葉全てが癇に障る。どんな理由があろうと虎太郎に触れたことが許せないのだ。
「てめえのやり方が気に入らねえって言ってんだ。俺は許した覚えはねぇ」
「無駄口叩いてる暇があったらさっさとやりたいことやっちゃえば?」
だめだ、またケンカモードに入ろうとしている。
「なあ、何か知らんが、その治療?というか“試す”ってのはホントだから。俺もいいって言ったし、だから椎神が悪いってわけじゃないし」
本当はいいとも言ってないし、椎神は悪いと思うけど、それを蒸し返すのはこの場ではまずい気がしたから椎神に話を合わせることにした。
「タロ・・・てめえ」
「はい?」
(何故俺を怒りの目で見る!)
怒りの原因が把握できないまま、矛先を向けられた虎太郎は龍成のガン見に怯む。
「てめえは誰でもいいってことか」
「だから何がだよ」
言葉には主語と述語だけでは分からない文があると言うのに、もう少し単語を入れて詳しく話せないものだろうか。いつも少なすぎる語彙から、その意を酌み取るこっちが苦労させられる。
「気になるなら龍成も試してみたらどうですか?」
「うるせえ、てめえは口挟むな。うせろ」
「あーもう、ケンカはよせってば!」
もう何が何だか意味不明。解読する気にもなりゃあしない。とうとう龍成は俺にまで怒り出すし、このままじゃ埒が明かない。またケンカになったらもう俺は知らんぞ。どうせ止められないし。
ここはひとつ・・・
虎太郎は龍成に向かって人並みの笑顔を作ってみた。ちょっと頬が引きつってピクピクしているけれど、無理をして作った割にはけっこうニッコリできていると思う。無理やり作る笑顔はけっこう慣れているのだ。こいつらのおかげでな。
「なあ龍成。花火しようぜ!」
「バカかてめえは。そんな気分じゃねえ」
「俺はそんな気分なの。お前を待ってたんだからな。見せたい花火もあるんだ。一緒にやろうぜ。ケンカなんかよりずっとおもしろいって。な、椎神もさ」
無茶ぶりかなとは思ったが、もうこんなことしか思いつかなかった。
それに俺は花火の続きがしたかった。だってまだ、半分もやってなかったから。タダなのにもったいないじゃん。
次回・・・「花火散る(6)」
花火、長いな・・・
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